pichori


序論(Introduction)

エンジン (engine) は、「生まれながらの才能」という意味を持つラテン語のingeniumから来たものと言われていて、フランスでは「能力」「賢さ」をenginと表記していました。18世紀に、「エネルギーを動力に変えるもの」という意味をもつようになったと言われています。
機械工学分野における、熱エネルギーを動力に変換する、熱機関(heat engine)を紹介します。熱機関は、燃料の化学的エネルギーを燃焼という過程を通して機械的エネルギーに変換する機関です。熱機関は、内燃機関(Internal-combustion engine)と、外燃機関(external combustion engine) に大別できます。
内燃機関は、機関内部で燃料を燃焼させて、熱エネルギーを機械的エネルギーに変換する熱機関を言います。代表的なものとして、ピストンエンジンやガスタービンエンジンなどがあります。 外燃機関と比較した場合、熱効率が良い反面、燃料の性質に制約があります。また、熱効率においてカルノーサイクルを越えるものは、理論的にあり得ません。
外燃機関は、機関内部にある気体を機関外部の熱源で加熱し、膨張させる事により熱エネルギーを運動エネルギーに変換する熱機関を言います。 代表的なものとして、蒸気機関・蒸気タービンやスターリングエンジンなどがあります。また原子炉を使った原子力機関も外燃機関の一種です。 外燃機関は、熱エネルギーから運動エネルギーに変換するための動作気体が必要で、蒸気機関では水を加熱し、その蒸気でピストンを動かし、機械的エネルギーを得るための蒸気を動作気体と言います。 内燃機関と比較した場合、熱源が外部にあるため、燃料の形態に制約が少なく、化石燃料以外に、原子力・地熱・太陽光等多種多様の熱源を利用する事が可能です。 一方、大きさ、重量の割に出力が小さい為、産業革命の原動力となった外燃機関でしたが、現在は、蒸気タービンを使って駆動力を発電機に伝える効率の高い大型の外燃機関が、原子力発電所などで使われるようになりました。

内容(Contents)

歴史(History)

  • 17世紀に、英国の発明者サミュエル・モーランド(Samuel Morland)が、揚水ポンプを駆動するために火薬を使った、最初の内燃機関を製作したと言われています。
    初期の内燃機関は圧縮が無く、吸入工程の始めに、吸入されるか又は吹き込まれた、空気と燃料の混合物で動きました。現代の内燃機関と初期のデザインの最も大きな差は、圧縮の有無と言えます。
  • 1791年
    英国のジョン・バーバー(John Barber)によりガスタービンの概念が考案されます。
  • 1824年
    フランスの物理学者サアディー・カルノー(Sadi Carnot)が、理想とされた熱機関の熱力学理論を確立しました。圧縮の必要を確立しました。
  • 1838年
    イギリスの、ウィリアムバーネット(William Barnet)が、燃料を圧縮することの、最初の特許を取得しました。
  • 1860年
    フランスのエチーネ・ルノアール(Jean Joseph Etienne Lenoir)が、石炭ガスを燃料にした、複動式蒸気機関と同じようにピストンの両側で交互にガスを爆発させ、一回転で2回の有効行程を得る圧縮の無いガス燃焼内燃機関を生産しました。これは、量産された最初の内燃機関で、ルノアールエンジンと呼ばれました。
  • 1862年
    フランスのアルフォンス・ボー・ドゥ・ロシャス(Alphonse Beau de Rochas)が、点火前に燃料と空気の混合気を圧縮させる考え方を元に、初の4ストローク・エンジンを発明します。このエンジンは燃料に、水の電気分解で発生させた水素ガスが利用されていました。
  • 1876年
    ドイツの、ニコラス・オットー(Nicolaus Otto)が、ルノアールエンジンをもとに、実用エンジンとして4サイクル式ガス機関(オットーガス機関)を発明します。これが現代の4ストローク・エンジンの原型となっています。
  • 1878年
    ニコラス・オットーが燃料にガソリンを使用した4サイクル式エンジンを開発します。これが、現在使われているガソリンエンジンの原型となっています。
  • 同年
    スコットランドの、デュガルド・クラーク (Dugald Clark) が2ストローク・ガソリンエンジンを製造し、1881年に英国特許を取得しました。エンジン本体外部に独立した圧縮装置を装備したものでした。
  • 1884年
    ノルウェイのイェンス・ウイリアム(Aegidus Elling)が、ガスタービンの特許を取得します。
  • 1885年
    ドイツの、ゴットリープ・ヴィルヘルム・ダイムラー(Gottlieb Wilhelm Daimler)が2輪車に取り付けたガソリンエンジンの特許を取得します。それは現代の内燃機関の先駆けと言える物で、その2輪車は世界初のオートバイとされています。
  • 1886年
    ドイツの、ゴットリープ・ヴィルヘルム・ダイムラー(Gottlieb Wilhelm Daimler)は、駅馬車とボートに小型エンジンを取り付けたものを発表します。駅馬車にエンジンをつけたものは世界初の四輪自動車とされ、ダイムラー・モトールキャリッジと呼ばれています。
  • 同年
    英国の、ジェームズ・アトキンソン(James Atkinson)はオットーサイクルより約10%効率的なエンジンを開発しました。彼のエンジンは、吸入量と圧縮行程は、膨張と排気行程より短かいもので、アトキンソン・サイクルと呼ばれています。
  • 1887年
    イギリス人のエドワード・バトラー(Edward Butler)が水冷2サイクル2気筒エンジンを使った3輪バイクを完成します。  
  • 1889年
    ロンドンのジョゼフ・デイ (Joseph Day) が、シリンダーポート構造と、クランクシャフト回転によるクランクケース内の遠心力を予備圧縮と掃気圧に利用し、混合燃料(潤滑オイルを燃料に混合したもの)を使用した2ストロークエンジンを開発します。
  • 1892年
    ドイツのルドルフ・ディーゼル(Rudolf Christian Karl Diesel)が、燃焼室内で空気を高圧に圧縮して高温を持たせ、そこに燃料を噴射することで自然着火させる、ディーゼルエンジン(diesel engine)を発明します。
  • 1893年
    ドイツのヒルデブラント(Hildebrand)兄弟が、水冷並列2気筒4サイクルエンジンを完成して新設計の自転車フレームへ搭載し、モトラッド(Motorrad)ドイツ語のオートバイと名付けて発表します。ボア・ストローク90×117mmで1,490ccエンジン、最高出力2.5PS/240rpm、最高速度40km/hでした。
  • 1894年
    アメリカのステファン・M・バルツァー(Stephen Marius Balzer)が、シリンダーを放射状に配列し、クランクシャフトを固定し、シリンダーブロックが固定されたクランクシャフトのまわりを回転するロータリー・エンジン(Rotary engine)を製作します。シリンダーは奇数で設計され、主に航空機用に用いられました。
  • 1901年
    アメリカのステファン・M・バルツァー(Stephen Marius Balzer)とチャールズM.マンリー(Charles M Manly)により、シリンダーを放射状に配列した星型エンジンが製作され、 1903年10月7日と12月8日にアメリカのサミュエル・ピエールポント・ラングレー(Samuel Pierpont Langley)がポトマック川の水上で行なった有人飛行実験に使用したタンデム翼のエアロドローム(Aerodrome)に搭載されていました。
  • 1903年
    ライト兄弟がにノースカロライナ州(North Carolina)のキティホーク(Kitty Hawk)にあるキルデビルヒルズ(Kill Devil Hills)で12月17日に、水冷直列4気筒、4,000cc、12馬力のエンジンを搭載した、ライトフライヤー号(Wright Flyer)によって世界で初の有人動力飛行に成功します。
  • 1939年
    ドイツのハンス・フォン・オハイン(Hans Joachim Pabst von Ohain)の、ガスタービン式ジェットエンジンを積んだ、「ハインケル航空機」のHe-178試作機が世界最初のジェット飛行を実現しました。
  • 1947年
    米国の、ラルフ・ミラー(Ralph Miller)は、オットーのエンジンをより単純なピストン結合でアトキンソンのエンジン効率向上を得ました。圧縮行程を膨張行程より機械的に短くする代わりに、吸入弁が圧縮行程の最初の間、開いているようにしました。そのためピストンの上昇行程で吸入された混合気の一部は吸入弁からマニホールドへと戻り、他のシリンダーが吸入するもので、ミラーサイクルエンジンと呼ばれています。
  • 1951年
    ドイツのフェリックス・バンケル(Felix Wankel)は、三角形のローターが、まゆ型のハウジングの中で遊星運動する、バンケルエンジンを開発します。1959年には、このエンジンを搭載した自動車がドイツのNSU社から発売されました。日本の東洋工業(現在のマツダ)は1961年にNSU社と技術提携し、1967年に、コスモ・スポーツに採用して発売しました。
  • 1963年
    イギリスのローバーがガスタービンを搭載した車で、ル・マン24時間レースに出場しました。

効率(Efficiency)

  • 物理学の熱
    熱はエネルギーの移動形態の一つで、「熱」という形態を通して移動したエネルギーの量を「熱量」といいます。人が感じる「熱い」「冷たい」は「温度」で、熱と区別する必要があります。
    熱を仕事に変換する装置を「熱機関」と呼び、熱から仕事への変換効率のことを熱効率といいます。熱効率は通常ηで表され、熱機関が取り入れた熱量をQH、放出した熱量をQLとすると得られた仕事Wは、QH-QLとなり、η=W/QHとなります。
    動力としての熱効率はガソリンエンジンで0.3、ディーゼルエンジンでは0.35〜0.38です、熱機関において、与えた熱を完全に仕事に変換できる熱機関は存在しないため、η=1にはなりません(熱力学第二法則)。
  • カルノーサイクル

    温度THからTLの間で動作する可逆熱サイクルの理論で、ニコラ・レオナール・サディ・カルノー(Nicolas Leonard Sadi Carnot)が1824年に導入したものです。カルノーサイクルにより熱力学が始まり、熱力学第二法則、エントロピー等の概念が導き出されることになります。

  • サイクル

    S1 VLからVHまで断熱圧縮→S2へ
    S2 温度THで、熱源から取り入れた熱量QHを等容積で吸熱→S3へ
    S3 VHからVLまで断熱膨張→S4へ
    S4 温度TLで、低温の物体に放出した熱量QLを等容積で放熱→S1へ

  • 理論熱効率

    H-QL
    理想気体の性質より、QL/QH=TL/THとなり、
    理論熱効率ηthは、W/QH=(QH-QL)/QH=1-QL/QH=1-TL/THとなります。
    これに圧縮比ε=VL/VHと、比熱比γ=CP/CVを加えた 理論熱効率ηthは、1-(VL/VH)γ-1=1-1/εγ-1となります。

    『ηth:理論熱効率 W:有効仕事 ε:圧縮比 γ:比熱比 CP:定圧比熱 CV:定積比熱 u:気体の内部エネルギー VL:圧縮前の体積 VH:圧縮後の体積 T:絶対温度』

特徴(Characteristic)

  1. 内燃機関では、燃焼熱量が高く排気熱量が低いほど効率は高くなります。
  2. 内燃機関では、エントロピーにおける分子の運動エネルギーには回転運動も含まれるため、比熱比(note.1)が大きいほど熱効率が高くなります。
    note.1 比熱比は、定圧熱容量と定積熱容量の比で、熱力学の解析に用いるのは、それぞれ1モルあたりの定圧比熱、定積比熱の比で、通常 γで表示されます。比熱比は温度が低いほど大きくなり、そのときの排気損失が小さくなるので空気過剰な燃焼ほど効率が高くなります。
    25℃における主な気体の比熱比は、ヘリューム=1.66、酸素=1.40、二酸化炭素=1.29、アンモニア=1.31、メタン=1.30です。
  3. 内燃機関では、膨張行程は断熱変化とみることができるため、燃焼開始時の燃焼ガスの体積(上死点の容積)と排気開始時の体積(下死点の容積)の比(膨張比)が高いほど熱効率が高くなります。
  4. 内燃機関では、圧縮行程は断熱変化とみることができるため、圧縮前の体積VLと、圧縮後の体積VHの圧縮比εと膨張比は等しいため、圧縮比が高いほど(note.2)熱効率は高くなります。
    note.2 通常のガソリンエンジンは圧縮比を高くしすぎると圧縮行程で混合気が過熱して異常燃焼(ノッキング)が発生してしまうため、9〜11の範囲に抑えられています。

ページトップ
戻る